第3章 指導計画と学習指導・評価


第1節 指導計画作成上の留意点

 指導計画には,年間計画,単元計画,単位時間計画(指導案または時案)などがあるが, 本節では柔道を年間計画に位置付ける上での留意点及び単元計画作成上の留意点について 述べる。

1 柔道を年間計画に位置付ける上での留意点

 年間計画は,1年間を通じて体育の学習指導を効果的に進めるための見通しを立てるも のであり,どのような学習内容を,いつ,どのように指導するかということを明らかにす るものである。つまり,体育固有の目標を実現するために, 学年間を見通した上で,各3 学年における単元の構成と配列を明確にしたものである。

 したがって,柔道の学習指導を効果的に進める立場から,柔道をどのように年間計画に 位置付けるかは重要な検討課題である。体育固有の目標の実現を期して,年間計画作成の 基本方針に従って他の運動領域や体育に関する知識あるいは体育理論等との関連を図って 作成方針を決め,それに基づいて具体化していくこととなる。 柔道を年間計画に位置付けるための一般的な手順は次のように考える。

(1) 保健体育科の指導の目標の確認

 柔道を年間計画に位置付けるにあたり,まず重要なことは保健体育科の指導の目標 を確認しておくことである。

 柔道の指導のねらいは,この保健体育科の目標や年間計画作成の基本方針を踏まえ, それをより具体化し,指導をどのように進めていくかが分かるようにしていく必要が ある。

 その場合,学校として重視する柔道の指導のねらいを明らかにすることが重要であ る。特に,①基本動作や対人的技能を身に付け,柔道の楽しさや喜びを味わって柔道 に親しむ資質や能力を培うこと,②伝統的な行動の仕方を重んじる態度,相手を尊重 して練習や試合を行う態度,公正・協力・責任などのいわゆる社会的な態度,健康・ 安全に留意して運動を行う態度を育てること,③練習の仕方や試合の仕方を工夫する などの柔道の学び方を学ぶことに関するねらいは明確にしておく必要がある。

 なお,柔道の指導のねらいの具体化にあたっては,生徒の柔道に対する興味・関心 等の程度,柔道に関する知識や技能の程度などの実態を明らかにする資料,さらには これまでの学習の成果等に関する資料などを収集し,その具体化に役立てることが大 切である。

(2) 学習内容の具体化

 中学校学習指導要領は,武道における技能の内容,態度の内容そして学び方の内容 を簡潔に示しているのみで,柔道についての具体的な内容は示していない。

 したがって,各学校においては,中学校学習指導要領解説保健体育編(平成 年11 ・文部省)及び高等学校学習指導要領解説保健体育編・体育編(平成11年・文部省) て学習内容を決める必要がある。その場合,柔道の特性を踏まえて,何を重点的に学 習させるのかを具体化することが重要である。

 なお,柔道は,中学校において初めて学習する運動種目であるので,中学校では基 礎的・基本的な学習内容を繰り返して指導する必要がある。また,高等学校において も基礎的・基本的な学習内容の指導の充実を図ることは当然のことであるが,中学校 の保健体育科での柔道の履修の有無や程度,運動部活動での柔道の経験の有無や程度 の状況を把握し,生徒一人一人の特性や技能の差などに応じられるような学習内容の 具体化を図っておく必要がある。

(3) 授業時数の確保

 柔道の指導を効果的に進めるためには適切な授業時数が確保されなければならな い。そのためには,学習指導要領に示されている保健体育科の授業時数や単位数が確 保されることが第一の条件であるが,このほかにも,特別活動や教科以外の体育的活 動の時間数を確保し,これらにおける柔道の指導に適切な時間数が充てられるように 工夫することも可能である。さらに,中学校では,各学年における選択教科としての 保健体育の授業時数を確保し,柔道指導に適切な時数が充てられるように考慮するこ とも可能である。いずれにしても,最も重要なことは,柔道に対する授業時数をどの ようにするかということである。

 柔道の授業時数の決定は,基本的には柔道の学習内容に応じて必要な時数を配当す ることとなるが,現実的には,学習指導要領に示されている授業時数や単位数を手掛 かりとするとともに,これまでの柔道の指導経験も考慮して適切な柔道の授業時数を 決めることとなる。

 以下は,中学校及び高等学校における柔道の授業時数決定の手掛かりとなる考え方 である。

ア 中学校における柔道の授業時数

 保健体育科の授業時数は,各学年それぞれ90単位時間であり,3年間で270単位 時間となっている。このうち体育分野に充てる授業時数は222単位時間程度が標準と なっている。さらに体育分野で各学年に充てる授業時数は,保健分野との関連で,第1 学年78単位時間程度,第2学年74単位時間程度,第3学年70単位時間程度となる。

 したがって,柔道の授業時数は,これらの単位時間の範囲の中で検討しなければな らない。

 なお,平成元年の中学校指導書保健体育編では,各領域別の授業時数の比率の例示 があったが,今次の改訂では,各学校の特色ある学校づくり,特色ある教育課程の編 成・実施という観点から中学校学習指導要領解説保健体育編では削除されている。つ まり,各学校において創意工夫して決定することとなる。

 関連して,平成元年の「指導書」において 「武道は,直接的に攻防するという運 動の特性や,中学校で初めて経験する運動種目であることなどから,各学年ともその 種目の習熟を図ることができるよう適切な授業時数を配当し,効果的,継続的な学習 ができるようにすることが必要である。また,武道は,段階的な指導を必要とするた め,特定の種目を 年間履修できるようにすることが望ましいが,生徒の状況によっ 意すべきことである。

イ 高等学校における柔道の授業時数

 高等学校の体育の標準単位数は ~ 単位である。標準単位数に幅があるのは,課 程や学科の特色に応じて,それぞれ,適切な教育課程を編成することができるように 配慮されているからである。

 授業時数については,高等学校学習指導要領解説保健体育編体育編において 「各 領域に授業時数を配当する場合,あらかじめ,内容の習熟が期待できる授業時数を各 領域別に想定し 『体育』の総授業時数の中で調整していくことが大切である 」と し,さらに 「武道については,運動の特性や内容の程度,地域や学校の実態などを 考慮して,各年次ともその種目の習熟を図ることができるようにすることが必要であ る 」としている。

 このように,領域別の時間配分の比率は特に示されていない。したがって,各学校 の体育の指導方針,体育施設・用具の整備状況,教員の指導組織などの諸条件によっ て決められることになる。

 柔道をより重視しようとする学校では,年間にわたって継続的に行うこともできる。 いずれにせよ,各学校の体育の指導方針に基づいて柔道の学習内容を選定し,それを 効果的に指導できる授業時数を決定することが重要である。

 なお,体つくり運動及び体育理論以外の運動領域は選択して履修することとなって いるので,授業時数は弾力的に取り扱うことが可能である。

(4) 単元構成の方針

 柔道を年間計画に位置付けるにあたっては,柔道の学習のまとまり,つまり,単元 をどのように構成するかということが重要な問題となる。

 具体的には,単元の大きさの問題についての方針を明らかにすることである。

 単元の大きさは各学校の柔道の学習内容や柔道の指導に確保できる時数などに応じ て判断することとなる。

 単元の大きさは,学習の効果をあげるため特定の学期にまとめて学習させる方式や, 週1単位時間をとって年間を通じて継続的に学習させる方式などがある。その他,二 つの学期にわたり,それぞれ十数時間の単元として構成する方式も考えられる。

 いずれにしても,柔道の学習内容に十分習熟できるよう,効果的な学習指導が展開 できる単元の大きさを決めることが重要である。その際,中学校・高等学校において は,個に応じた指導の充実という観点から選択制授業を推進していることもあり,生 徒が自ら選択した運動種目に大きな時間を配当することが有効であることに留意する 必要がある。

(5) 単元の配列

 柔道の単元を年間のどの時期に配列するかについては,高等学校学習指導要領解説 保健体育編体育編に「一つの領域の内容に習熟させるには,授業をある期間に集中し て行うか,あるいは年間にわたって継続的に行うかについて十分検討する必要があ る 」とされているが,季節や学校行事等との関連からも考慮する必要がある。柔道 の学習は,気候のよい時期に配列すると学習効果を高めることができるため,春や秋 必ずしもこの季節に配列できない場合もあるが,柔道を初めて学習する生徒が多い場 合は,運動量が比較的少ないことから,冬季へ重点的に配列することは学習効果や意 欲の面から望ましくないといえよう。

 学校行事との関連では,校内の武道大会などを予定している学校では,これらの学 校行事との関連を図って単元配列の工夫をする必要がある。

2 単元計画作成上の留意点

 単元計画は,一つの単元をどのように展開するかの見通しを立てたものであり,体育の 単元は運動種目でおさえられるのが一般的である。例えば柔道という学習内容を一つのま とまりとして学習指導を展開していくための計画である。

 柔道の単元計画作成の手順は以下のように考えることができる。

(1) 運動の特性の明確化

 運動の特性は,心身の発育発達や体力の向上に及ぼす効果面に着目した「効果的特 性 ,その運動固有の技能面に着目した「構造的特性 ,生徒自身がその運動にどん な魅力を感じてどんな欲求を充足していくかという「機能的特性」などから捉えるこ とができる。

 今日の体育の学習指導では,その運動固有の楽しさや喜びは何かという視点から捉 えた見方,つまり「機能的特性」に触れて得られる楽しさや喜びを味わうことを重視 している。

 柔道の楽しさや喜びには,大きく二つあると考えることができる。①自己の能力等 に応じた技を身に付けることの楽しさ・喜び(達成型 ,②その技を使っていろいろ な相手と練習や試合ができることの楽しさ・喜び(競争型)である。これら二つの楽 しさ・喜びを味わうことができるようにすることが大切である。

(2) 単元のねらいの明確化

 単元のねらいは,その単元でどのようなことをねらいとし,どのように指導しよう とするかを明らかにするものである。

 したがって,柔道の単元では,柔道のどのような技能,態度,学び方を身に付けさ せ,どのような練習や試合ができるようになることを目指しているのかを明らかにし ていくことが大切である。また,どのような望ましい行動の仕方を身に付けさせよう としているのかも明らかにする必要がある。

 単元のねらいは,単に学習の方向性を示すだけでなく,学習を効果的に展開する上 でも役立つものでなければならない。したがって,生徒の学習のねらいになるととも に,単元の学習を通じて評価の規準にもなり得るような具体的なものとする必要があ る。

(3) 学習内容の具体化

 柔道の学習内容は 柔道の指導において学習させる事柄であるが 前章で述べた 学 習内容の考え方」に基づいて,できるだけ具体的に示すことが大切である。 技能の内容については,基本動作,対人的技能,試合があり,柔道の単元の目標に 即して,どのような種類のものをどの程度学習させるかを明らかにする。

 態度の内容については,相手を尊重する,健康・安全に留意して練習や試合をする ことであり,技能の学習との関連で,行動の仕方,規則,礼法などにかかる具体的な 内容として示す。

 学び方の内容については,練習や試合を通して自己の運動の課題を見いだし,その 課題を解決するための練習内容や練習の仕方などを工夫することができるようにする。

(4) 時間の配当

 学習内容が具体化されると,次にはそれらの指導に必要な時間を配当することとな<る。

 時間は,単元の構造に即して適切に配当する必要がある。

 柔道の単元は,他の運動と同様,はじめ(導入 ,なか(展開 ,まとめ(整理) の三段階で構成されるが,それぞれの段階における学習内容の習熟が図れるような時 間の配当に留意する必要がある。

 なお,態度の内容と学び方の内容は,技能の内容の学習との関連で学ぶこととなる。

(5) 学習過程の工夫

 柔道の学習指導を効果的に行うためには,「学習の道筋」すなわち学習過程を工夫 することが重要となる。

 今日の体育の学習指導では,生徒一人一人を伸ばすことが極めて重視されているが, 生徒一人一人を伸ばす学習指導における具体的な学習活動は多様であり,極論すれば 学習していることが一人一人異なっている場合もある。そこでは,生徒のその時点に おける力量に応じてその運動を楽しみ,深めていけるような学習指導の発展を工夫す ることが求められる。

 現在,学習過程は「今もっている力を十分生かして特性に触れる」段階と 「新し い創意・工夫を加えて特性を深める」段階の二つで構成されることが多いが,柔道の 学習過程も,単元のねらいを踏まえながらこのような学習過程を工夫していく必要が ある。

 柔道の単元の学習過程としては 対人的技能を活用した練習や試合の課題を設定し,, その課題の解決に必要な基本動作や対人的技能の練習,さらにそれらの発展のための 練習や試合などを行っていく「学習の道筋」を考えることができる。

 毎時間の学習過程は,その学習のねらいなどに即して各学校において適切に工夫し ていく必要がある。

(6) 学習指導の展開

 学習指導を展開するにあたっては,教師は学習活動の各段階における活動を予想し, それをどのように指導していくかという見通しを立てる必要がある。

 単元における学習活動は,前述したように,はじめ(導入),なか(展開),まと め(整理)の三段階から捉えることができる。

 はじめ(導入)の段階は,単元計画について理解させるとともに,生徒が自分たち の学習計画をもてるようにする段階である。具体的には,学習のねらいを理解する, 学習集団を構成する,それぞれの役割分担をする,体育施設・用具の準備をする段階 であり,教師が予想しているなか(展開)の段階での学習活動の進め方を理解させる 段階でもある。

 なか(展開)の段階は,学習のねらいの実現に向けて,生徒が「学習の道筋」にし たがって,自発的・自主的な学習活動を展開し,練習の仕方や練習の要点などを理解 し実践する段階である。この段階は,生徒が学習内容を身に付けるための練習の進め 方や協力の仕方などについての学習活動を具体的に展開する段階でもあり,( )で述5 べたような学習過程の工夫が求められる学習活動の段階でもある。

 まとめ(整理)の段階は,はじめ(導入),なか(展開)の段階で学習してきた学 習の成果を評価し,次の学習に向けて課題や学習の手掛かりを得る段階である。かつ, 単元の学習のまとめをする段階でもある。

 なお,教師は,はじめ(導入)の段階では,できるだけ具体的に学習の要点が理解 できるように指導し,なか(展開)の段階では,教えるべきことは繰り返してでも教 えるとともに,生徒の学習上の課題についてその解決のヒントを与えるようにする。 そのほか,各学校で作成した単元計画に即した評価規準に基づいて,各段階で適時・ 適切に評価活動を行うことも必要である。

 柔道の学習指導においても,これら三つの段階に応じた学習活動を展開していくこ とが大切である。


第2節 柔道の特性に基づく学習指導と評価

1 柔道の特性と学習指導

(1) 特性と学習指導

 柔道の特性を踏まえた学習指導の要点としては,次のような点をあげることができ る。

 第1は,柔道は素手で相手と直接的に組んで攻防しながらその勝敗を競い合うこと を特性としており,柔道の学習指導の課題を明確にすることである。

 第2は,柔道の学習指導の課題を達成するためには対人的技能の学習を中心に行う ことが大切であり,相手を制するための対人的技能を高め,さらに得意技へと発展さ せていくことが必要である。この対人的技能の基礎となるのが基本動作であり,かか り練習(打込み),約束練習,自由練習(乱取り)はこれらの技能を高めるための練 習法である。このような基本動作,対人的技能,試合と,これらの技能を高めるかか り練習(打込み),約束練習,自由練習(乱取り)の相互関係や指導計画への位置付 けを明らかにして,指導の手順や練習の仕方などを決めることである。

 第3は,柔道は,伝統的な行動の仕方,相手を尊重する態度,公正な態度,健康・ 安全に留意する態度などが重視されるので,格闘的な競技としての闘争感情を自己制 御できる態度を身に付けさせることである。

 第4は,対人的技能や,得意技を身に付けるためにはどのような練習の仕方を工夫 したらよいか,また,試合の仕方をどのように工夫したらよいかなど学び方を学ぶこ とである。

(2) 特性に応じた学習過程

 柔道の学習過程は,一般的には,基本動作,特に受け身を学習し,次いで対人的技 能を身に付け,自由練習(乱取り)や試合に発展させることが重視される。

 ところで,例えば球技などの他の運動では,初心者を対象とした場合でも,初めか らゲームを中心に学習を進めながら,その中で必要な個人的技能や集団的技能を取り 扱っていくような学習過程も工夫されている。このような学習過程を繰り返すことに よって より高度なゲームを展開することができるという考え方に基づくものである。

 柔道においても,ある程度の技を習得したものを対象とした場合は,このような学 習過程が可能である。しかし,初心者のみを対象とした場合は,基本動作や対人的技 能を学習したあとで,その技能の習得の程度に応じた試合を計画することが,基本動 作や対人的技能を効果的に学習する上からも,けがの防止の面からも望ましい。

 したがって,柔道の学習過程は,柔道の特性を踏まえるとともに,生徒の技能の習 得の程度に応じて適切に工夫していくことが重要といえる。

(3) 中学校,高等学校で特に配慮すべき事項

ア 中学校

 中学校期は,身体的にも精神的にも発育発達の著しい時期である。運動能力につ いてみても,神経系の働きが中心となる運動能力は,青年期に劣らない程度の発達 をしているが,筋力とかかわる運動能力の発達などは十分でない。

 したがって,第1学年での技の学習は,崩し,体さばき,進退動作を中心とした 柔道の動きそして基本的ないくつかの技を身に付けることに重点を置き 第2学年,, 第3学年と学年が進むにしたがって,技そのものの学習と基本動作の習熟に重点を 置くようにすることが大切である。

 加えて 柔道は多くの生徒にとって中学校で初めて学習する運動であることから, 学習の進度を考慮し,課題の設定,学習内容の選択,学習する技の範囲と程度など に無理のないよう配慮することが重要である。

イ 高等学校

 高等学校では,まず中学校で柔道の学習経験のある生徒とない生徒など多様な実 態があることに留意する必要がある。

 第1学年では,中学校での柔道の学習経験がある生徒であっても,技能の程度に は差がある。したがって,第 学年の前半は,柔道の動きを身に付けることに重点 を置きながら,基本動作や対人的技能を学習させるなどして,技能の程度の低い生 徒の技能を高めていくようにする。そのためには,技能の程度の高い生徒と低い生 徒を適切に組み合わせた練習方法を取り入れたり,学習集団の編成にあたって,技 能的に優れしかもリーダーシップを発揮できる生徒をグループに配置するなどの配 慮が必要となる。

 あるいは,中学校での学習経験や技能の程度の低い生徒を一集団として,重点的 な指導を行うことも効果的である。その際,技能の程度の高い生徒たちへの学習内 容・活動を適切に指示しておくことはもとより大切である。

 また,高等学校は,全学年を通じて選択制授業であることから,第2学年,第3 学年と学年が進むにしたがって,生徒一人一人の能力をより一層伸長していくこと のできる個に応じた学習指導の工夫が必要となる。

(4) 女子の履修と指導上の留意点

 武道は,従前,主として男子が履修してきたが,平成元年の学習指導要領の改訂に より,男女とも履修することができることとなった。このことから,柔道を履修する 女子が多くなっている。

 女子の柔道の指導にあたって留意すべきことは,基本的には男子の場合と同様であ るが,その発育発達的特性を踏まえて,身体の発育の特徴や心理的な特性等について 十分に配慮しながら,柔道の楽しさを味わうことができるような学習指導を工夫して いくことが大切である。

ア 身体面・心理面

 中学校,高等学校期は,生徒の成長の著しい時期でもあり,男女の体力の差が大き い。一般的に,柔軟性などは女子が優るが,筋力や瞬発力などは女子が劣るという特 徴がある。また,生徒一人一人の技能の差もあるため班編成にあたって十分配慮する 必要がある。また,相手と組み合うという柔道の特性から,柔道衣を清潔に取り扱う とともに,長い髪や爪などの適切な扱いについても指導することが大切である。

 なお,柔道衣の下に白い丸首の半袖シャツを着用させるなど適切な指導も必要であ る。

イ 技能面

 柔道は,相手を投げたりすることによって,その楽しさを味わうことができるが, 投げることと同様に,投げられた時の対応や防御が大切である。上手に投げられるこ とによって技能が上達し,結果的に柔道の楽しさを早く味わうことができるようにな るので,筋力が弱い女子の場合,投げられたときのための受け身を十分練習させるこ とが大切である。

 技能面の指導において男女の違いは一般的にはないが,女子には身体的な特質があ るので,それを生かした指導を行うことが望ましい。例えば,抑え技は,柔軟性や持 久力に優れていることからすれば,女子に向いた技といえる。投げ技は,筋力が劣る ため,初めは動作が小さく相手の体重を支えることの少ない技を,次に大腰のような 体さばきが大きく両足支持の技,それから片足支持の技というように,体力に応じて 順を追って技を習得させていくと効果的である。特に,技の習熟を図るために,十分 学習時間を確保することが大切である。

 最終的には,女子も基本動作や対人的技能を確実に身に付けさせて,試合ができる ようにすることが大切である。

2 学習指導の進め方

(1) 学習指導の進め方と留意点

 柔道の学習指導を効果的に進めるためには,生徒の実態や技能の程度を踏まえて, 学習指導を適切に工夫していくことが大切である。そのことによって,生徒の柔道の 技能が高まるだけでなく,柔道の楽しさや魅力を味わわせることができ,柔道に対す る学習意欲を高めることができる。

ア 学習意欲を高めるための工夫

 生徒が学習活動に意欲的に取り組み,楽しく学習していくためには,各時間ごとに, また単元ごとに課題をもたせ,それを達成するための練習の仕方などを工夫させる必 要がある。その際,生徒全体を対象として課題をもたせることも必要であるが,生徒 一人一人がそれぞれの技能の程度に応じた課題をもち,それを達成するための練習の 仕方などを工夫していくように助言を与えることが大切である。

 練習の仕方について一例をあげれば,技能の程度の同じ生徒同士の練習だけでなく, 技能の程度の高い相手とも練習し,生徒一人一人の課題に応じた練習を行わせること などである。課題によっては教師が相手となって指導することも大切なことである。

 柔道は,直接相手と組んで競い合う運動であるため,ともすると体力の劣る生徒は 学習意欲に欠ける傾向もみられる。このような生徒に対しては,特に個に応じた指導 を重視することが重要である。その際,学習の過程に重点を置き,その生徒の能力に 応じた具体的な課題を示し,それが達成されたら次の課題へ進ませ,適時に勝敗を競 い合うことの楽しさ・喜びを味わいながらも技能の向上の過程を重視させるようにす ることが学習意欲の向上につながり効果的である。

イ 学習集団の作り方

 学習の初歩的な段階では,編成した学習集団で共通的にみられる問題を解決させな がら,個人指導も加味していくという指導形態をとるのが一般的である。

 進んだ段階では,最初の集団をいくつかに分けて学習させると効果的である。その 際,教師は,教育機器や指導資料を豊富に用意する,各班ごとの学習課題を示したり 各班ごとに考えさせたりするとともにその解決の仕方を助言する,生徒一人一人の特 性に応じた指導に配慮するなど,多様な指導を行うことが必要である。

 さらに進み,生徒の技能がかなり上達して,自由練習(乱取り)や試合に重点を置 くような段階では,団体戦による試合を目標として班としての練習の仕方などを工夫 させることも必要である。

(2) 学習指導の展開

 学習指導を展開していくに際しては,課題を達成するため選定した学習内容をでき るだけ具体化し,いくつかのまとまりに構成し,学習過程に変化をもたせることが必 要である。

ア はじめ(導入)

 はじめ(導入)の段階では,柔道の特性や,課題の達成のための学習活動の進め方 などについて学習させ,なか(展開)の段階での学習活動に意欲をもたせるようにす る。

 柔道を初めて学習する生徒に対しては,柔道についての知識や学習を進める上での 決まりなどを理解させることが大切である。なお,柔道についての知識は,オリエン テーションとして講義形式の授業を行ったり,必要と思われる内容を技能の学習と関 連させながら理解させたりすると効果的である。

 柔道の学習経験をもつ生徒に対しては,既習の学習の成果を踏まえ,その学年にお ける学習課題や柔道を学習する上での心構えなどについて理解させるとともに,生徒 一人一人が課題をもてるようにする。

 学習集団は,指導のねらいや技能の程度などに応じて,等質,異質あるいは人数構 成などを考慮し適切に編成していくことが大切である。

イ なか(展開)

 なか(展開)の段階では,個を生かす学習指導を重視する観点から,生徒一人一人 の特性に応じた多様な指導を展開していくことが大切である。

(ア) 基本動作

 基本動作のうち,姿勢,組み方の学習は,攻防の変化に応じやすい自然体の姿勢 と組み方で進退動作ができ,相手を崩し体をさばいて技がかけられるようにする。

 姿勢,組み方では,まず,正しい自然体の組み方を理解させ,かかり練習(打込 み)や約束練習の過程で技に応じた組み方,間合いを具体的に練習させる。

 崩しは,相手の体勢を不安定なものにし,技がかけやすい状態をつくる基本動作 で,体さばきは,相手の不安定な体勢に即して技をかけやすい状態につくる基本動 作である。崩しと体さばきは表裏一体の関係にあり,技のかけと投げの技能と密接 不離な関係をもっているので学習の単位としては,崩し,体さばき,技のかけをま とまった技能として捉えるのが望ましい。このことから,崩し,体さばきの指導は, 基本的な要領を理解させ,次いで進退動作の中で体得させ,さらに具体的な技との 関連でできるように練習させることが大切といえる。

 受け身は,相手のかける技の種類に応じて安全にできるようになることが必要と されるので,個々の受け身の仕方について練習を繰り返し行う必要がある。次いで, 崩し,体さばきとの関連を身に付けさせ,さらに,投げ技と結びつけて多様な場面 に即した受け身を練習させることが大切である。

 このように基本動作は対人的技能との関連が深いことから,一体のものとして指 導していくことが肝要である。

(イ) 対人的技能

 対人的技能のうち,投げ技の指導は,手技,腰技,足技という分類からそれぞれ の個々の技を取り上げて学習させることも考えられるが,崩し,体さばきとの関連 で技を分類し,その系統別に指導することが効果的である。すなわち,膝車と支え 釣り込み足はともに相手を崩す方向や体さばきは同じであることから,同じ系統の 技として取り扱い,崩しと体さばきとの関連で技のかけと投げを学習させる。大腰, 釣り込み腰,背負い投げについても同じことがいえる。

 この観点から,体さばきを種類別に分類し,次にこれを崩しの方向から見直して 技の指導の系列をつくっておく必要がある。それぞれの技の指導にあたっては,崩 しや体さばきと関連させて身に付けさせることが基本である 「崩し→体さばき→ 技のかけ→投げ」の動作が一連の動きとしてできるようになることを重点とし,特 に「技のかけ→投げ」の動作で引き手や釣り手の力の方向,あるいは,足で刈った り,払ったりする方向などが一連の動作として合理的に働くようにさせることが必 要である。これらの技能は,かかり練習(打込み)や約束練習で学習させ,自由練 習(乱取り)で習熟させるように段階的に指導することが大切である。

 投げ技に対する防御については,各技がある程度できるようになってから,それ ぞれの投げ技に即応する防御の仕方を具体的に指導するとよい。初めは,体さばき によって相手の技をかわす方法がよい。

 固め技は,相手の手や足などによる防御をはずして,相手の自由な動きを制する 技であり,相手の防御をはずすという学習から始めるとよい。特に相手の下肢を制 しての入り方,相手の上体の制し方などが学習の中心となる。

 技の連絡変化は,個々の技を習得してから行うようにする。未熟な段階では,相 手にけがをさせる場合があるので十分な注意が必要である。中学校では,基本的な ものにとどめる。

 なお,技の連絡変化は多様な組み合わせができることから,生徒の得意技を中心 にその連絡変化を工夫させるなど自己の能力に応じた学び方を学ぶ良い機会であ る。

(ウ) 試合

 試合を行う場合,学習内容としての試合のねらいを明確にする必要がある。それ によって試合の形式や方法などが限定され,用いる技能の種類も具体化されてくる。

 試合の取り扱いについては,安全上のこともあって一般的に,基本動作や対人的 技能の指導の徹底を図ってから行うことが多いが,学習段階に応じた適切な試合を 工夫して行うことによって,その後の学習において,生徒自らが基本動作や対人的 技能の習熟を図り,得意技を身に付けようとするなど効果的である。

 また,審判の仕方を学習することにより,規則の適用や運用が明確となり,相手 を尊重して公正な態度で試合を行ったり,勝敗に対する正しい態度をとったり,事 故防止に必要な態度について具体的な行動の仕方として学習することができる。

 その他,試合に必要な一般的事項や 「一本」「技あり」「それまで」などの審判 員の動作,試合の始めと終わりの礼法や動作などを事前に指導し身に付けさせてお くことが重要である。

(エ) 態度

 態度に関しては,伝統的な行動の仕方を重視するとともに,相手を尊重する態度 をとることなどが極めて重要である。また,指導計画に基づいて互いに教え合った り,協力し合ったりして学習することを身に付けたり,練習や試合では,正しく技 をかけたり,技がかかった場合は正しく受け身をするなど事故防止に留意する態度 を養うことも大切である。

 相手を尊重する態度の一例として,次のようなことがあげられる。

○練習や試合での礼法は正しく行う。
○相手の人格を無視するような言動は絶対しない。
○試合の応援で粗野な言動をしない。

ウ まとめ(整理)

 まとめ(整理)の段階では,柔道の学習の課題の達成に生徒がどのように努力し, それをどの程度達成したかなど学習の成果をまとめる。この段階では,学習してきた ことを評価するとともに,次の学習に向けての課題や学習の手掛かりを得ることとな る。

 評価の方法としては,練習や試合などを通じての生徒自身による自己評価,生徒同 士の相互評価,学習集団での話し合い,教師による講評や評価などがあり,これらを 総合的に活用して行う必要がある。

 なお,評価活動は,学習の過程や成果について適切に実施し,今後の学習指導に役 立てていくことが最も重要なことである。

3 新しい視点に立った学習過程

(1) 学習過程の改善・工夫の考え方

 新しい学習指導要領の趣旨に沿った学習過程の考え方については,前節の「学習過 程の工夫」や,本節の「特性に応じた学習過程」の項でも触れたが,学習過程の具体 的な改善・工夫については,以下のように考えることができる。

 生徒一人一人を伸ばしていこうとする今日の体育の学習活動は,さらに多様化して いく。極論すれば,行っていることが一人一人異なるということにもなる。

 このような多様な活動を学習過程の中に適切に位置付けるためには,生徒のその 時点での力量に応じて,運動を楽しみ深めていけるような学習指導を進めていかなけ ればならない。つまり,単元を通じて,毎時間その運動の特性に十分触れることがで きるような学習過程を工夫していくことが大切である。

 生徒一人一人を伸ばす学習過程を考える場合,生徒と運動とのかかわりを一つのま とまりとして捉え,このまとまりをできるだけゆとりをもった大きな時間で構成して いくことが必要となる。

 このような考え方に基づく学習過程は,次のように構成することができる。

_________________________
ねらい①
 今もっている力を十分生かして特性に触れる
_________________________

_________________________
ねらい②
 新しい創意・工夫を加えて特性を深める
_________________________

 この学習過程は,はじめのまとまり,つまりねらい①は,今の力を十分に生かして その運動の特性を求めていく学習の段階であり,次のまとまり,つまりねらい②は, 創意・工夫や努力を加えてさらに深くその運動の特性を求めていく学習の段階であ る。そして,それぞれの段階に十分時間をかけて学習を進め,ねらい①における豊富 な経験がねらい②における活動の土台となり,それが1つの単元を通じて連続的に持 続されていく学習活動の流れである。

 なお,学習過程を具体化するにあたっては,それぞれの運動の特性によって,内容 の取り扱いや時間数の配当などが異なってくるが,柔道の特性に応じた学習過程は次 のように示すことができる。

 柔道の特性の求め方には,達成的な技の習得(達成型)及び競争的な個人や班での 試合(競争型)などがあり,これらが柔道の学習過程を導く視点となる。

○達成型の場合

_______________________________
めあて①
 「基本動作を身に付けるとともに,いろいろな対人的技能を
身に付けることができるようにする。」 (達成型)
_______________________________

_______________________________
めあて②
 「対人的技能の中から得意技を身に付け,いろいろな人と
練習ができるようにする。」 (達成型)
_______________________________

○競争型の場合

____________________________
ねらい①
 「基本動作や対人的技能を身に付け,対戦相手を選んで
練習や試合ができるようにする。」 (競争型)
____________________________

____________________________
ねらい②
 「得意技を身に付け,いろいろな人と得意技を生かした
練習や試合ができるようにする。」 (競争型)
____________________________

○達成型と競争型を合わせた場合

_______________________________
ねらい①
 「基本動作を身に付けるとともに,対人的技能の中から
得意技を身に付けることができるようにする。」(達成型)
_______________________________

_______________________________
ねらい②
 「身に付けた得意技を生かして,いろいろな人と練習や
試合ができるようにする。」(競争型)
_______________________________

 生徒一人一人を生かした柔道の指導を進めていくためには,生徒一人一人にふさわ しい課題(習得を目指す技,技能の程度に応じた試合の対戦相手など)をもたせるこ とが重要である そのため 技の難易度や技の系統などを示した学習資料を準備して, 生徒一人一人の今できる力や技を自己評価させながら課題を決めさせたりするなどの 工夫が求められる。

 また,生徒一人一人の課題に応じて,練習の場を選んだり,工夫できるような多様 な学習活動の場の工夫も重要である。

 さらに,学習集団は,各自の課題に応じた班で編成し,しかも課題の変化や発展に 応じて,自由に移動することのできる流動的な班,あるいは少人数の班の方が特性を 生かしやすいといえる。

(2) 選択履修の拡大に対応する考え方

 前述の「学習過程の改善・工夫の考え方」に加えて,もう一つ重要なことがある。 それは,中学校・高等学校における選択履修の幅の拡大である。武道の取り扱いは, 基本的に選択である。したがって,各学年で武道を選択する生徒がいる一方である学 年で初めて選択する生徒がいたり,全く武道を選択しない生徒もいる。武道でも柔道 を選択したり剣道を,あるいはその他の武道を選択したりすることがあり得る。この ように個に応じた指導の充実という観点による選択履修の拡大にどのように対応する か,今日的な大きな課題であるとともに,今後の課題でもある。

 このことに対応するためには,例えば,その生徒が柔道についてどの程度の学習経 験(時間)があるのか,その学習経験(時間)に即した学習段階を考えるなど,中学 校・高等学校を見通した指導計画があるとよい。

(3) 柔道の単元における学習過程の例

 前述の「学習過程の改善・工夫の考え方」に基づく,柔道の単元における学習過程 を例示すれば,次の通りである。

○達成型の場合 (図 参照)

./img/Fig_003_Tassei.png

○達成型と競争型を合わせた場合 (図 参照)

./img/Fig_003_Tassei-Kyousou.png
(注)競争型の場合,ねらい①も(競争型)

(4) 柔道の単元における学習指導の展開例

 柔道の単元における学習展開は,段階的な指導を重んじる考え方のもとで,次のよ うな展開例が今なお一般的に行われている。

<従前の展開例> (図 参照)

./img/Fig_003_Tenkairei_Old.png

 しかし,柔道の機能的な特性を重視した柔道の単元における学習展開を考える場合 できるだけ相手と対する形で学習させることが大切である。

 したがって,基本動作は対人的技能と関連させた指導を重視し,生徒一人一人の学 習の課題にふさわしい対人的技能を学習させ,習得した対人的技能を使って練習や試 合をさせたり,技の工夫をさせたり,競い合ったりさせるような学習展開が望ましい。

 このような考え方に基づく新しい学習展開として,次図のような例をあげることが できる。

<新しい展開例1> (図 参照)

./img/Fig_003_Tenkairei_New1.png

<新しい展開例2> (図 参照)

./img/Fig_003_Tenkairei_New2.png

 学年や学習経験の違い,学習集団の質的な差異などにより一概に論じることはでき ないが,柔道の単元の学習展開においても,安全に十分配慮しながら早い段階から試 合を取り上げ,生徒が意欲的に学習に取り組んでいくような学習指導の工夫が必要で ある。

4評価

(1) 評価の基本的な考え方

 改訂学習指導要領は,基礎的・基本的な内容の確実な習得を図り,自ら学び自ら考 える力などの「生きる力」を育成することを基本的なねらいとしている。このような ねらいを実現するための生徒の学習の評価の在り方については,観点別学習状況の評 価を基本とする評価方法を発展させ,目標に準拠した評価を一層重視するとの基本的 な考え方に立ち,指導要録における各教科の学習の記録の取り扱いについて,観点別 学習状況を評価の基本とすることを維持するとともに,評定を目標に準拠した評価に 改めることとしている。また,生徒一人一人のよさや可能性,進歩の状況などを積極 的に評価していく観点から,「総合所見及び指導上参考となる諸事項」の欄において, 個人内評価を一層充実していくこととしている。

 これを受けて,中学校(平成14年2月に「評価規準の作成,評価方法の工夫改善 のための参考資料-評価規準 評価方法等の研究開発 報告 - 及び高等学校 平 成16年4月に「評価規準の作成,評価方法の工夫改善のための参考資料(高等学校)」) の評価規準の参考資料が国立教育政策研究所教育課程研究センターから公表されてい る。

(2) 観点別学習状況の評価と評定

ア 観点別学習状況の評価

 中学校については,学習指導要領に示す各教科の目標に照らして,その実現状況 きると判断されるもの」をA 「おおむね満足と判断されるもの」をB 「努力を 要すると判断されるもの」をCとする。

 高等学校については,観点別学習状況の評価を生徒指導要録に記載する欄は示さ れていないが,評定への総括にあたっては観点別学習状況の評価を十分踏まえるこ ととしている。

イ 評定

 中学校については,各学年における各教科の学習の状況について,必修教科につ いては,各教科別に中学校学習指導要領に示す目標に照らして,その実現状況を, 選択教科については,この教科の特性を考慮して作成された目標に照らして,その 実現状況を総括的に評価し,記入する。

 必修教科の評定は,5段階で表し,5段階の表示は5,4,3,2,1とする。 その表示は,中学校学習指導要領に示す目標に照らして 「十分満足できると判断 されるもののうち,特に程度の高いもの」を5 「十分満足できると判断されるも の」を4 「おおむね満足できると判断されるもの」を3 「努力を要すると判断 されるもの」を2 「一層努力を要すると判断されるもの」を1とする。

 選択教科の評定は,3段階で表し,3段階の表示は,A,B,Cとする。その表 示は,それぞれの教科の特性を考慮して設定された目標に照らして 「十分満足で きると判断されれるもの」をA 「おおむね満足と判断されるもの」をB 「努力 を要すると判断されるもの」をCとする。

 評定にあたっては,評定は各教科の学習の状況を総括的に評価するものであり, 「観点別学習状況」において掲げられた観点は,分析的な評価を行うものとして, 各教科の評価を行う場合において基本的な要素となるものであることに十分留意す る。その際,観点別学習状況の評価を,どのように評定に総括するかの具体的な方 法等については,各学校において工夫することが求められる。

 高等学校については,各教科・科目の学習について5段階で表し,5段階の表示 は,5,4,3,2,1とする。その表示は,高等学校学習指導要領に示す各教科 ・科目の目標に基づき,学校が地域や生徒の実態に即して設定した当該教科・科目 の目標や内容に照らし,その実現状況を総括的に評価して 「十分満足できると判 断されるもののうち,特に程度の高いもの」を5 「十分満足できると判断される もの」を4 「おおむね満足できると判断されるもの」を3 「努力を要すると判 断されるもの」を2 「努力を要すると判断されるもののうち,特に程度の低いも の」を1とする。

 評定にあたっては,ペーパーテスト等による知識や技能のみの評価など一部の観 点に偏した評定が行われることのないように「関心・意欲・態度」,「思考・判断」, 「技能・表現」,「知識・理解」の四つの観点による評価を十分踏まえながら評定 を行っていくとともに,5段階の各段階の評定が個々の教師の主観に流れて客観性 や信頼性を欠くことのないよう学校として留意する。その際,各教科の評価の観点 及びその趣旨を示しているので,この観点を十分に踏まえながらそれぞれの科目の ねらいや特性を勘案して具体的な評価規準を設定するなど評価の在り方の工夫・改 善を図ることが求められる。

(3) 柔道における学習評価の基本

ア 評価の目的

 評価の目的としては,生徒が目標の実現に向けてどのような変容をしているのか を明らかにし,次への意欲をもったり,自分の課題を見つけたり,方向性を見いだ したりすることができるようにするということがあげられる。学習の状況を測定し たり,評価結果を通知したり,観点別学習状況の評価や評定をするために用いたり することにとどまっていてはならないのである。そして,評価は保健体育科として の教科の目標,及び体育の学習としての柔道の目標が実現できるように行うことが 大切である。また,授業者にとっても,評価活動を通して自分自身の授業を振り返 るとともに,授業展開の仕方を改善していく際の手掛かりとなることを踏まえてお くことが大切である。

イ 保健体育科の評価の観点とその趣旨

 評価の観点及びその趣旨は,次のようなことを踏まえることとする。

(ア)運動や健康・安全への関心・意欲・態度

 この観点は,生涯にわたる豊かなスポーツライフ及び健康の保持増進の基礎を培 い 明るく豊かで活力のある生活を営む態度の育成を目指して設定したものである。

 具体的には,自己の能力・適性等に応じて運動に関心をもち,自ら進んで自主的 かつ継続的に運動を実践し,運動の楽しさや喜びを体得しようとしているか,健康 ・安全に留意して運動を行う態度や公正・協力・責任などの態度を身に付けている かどうかをみるために,この観点を設け,目標への実現状況を評価しようとするも のである。

(イ)運動や健康・安全についての思考・判断

 この観点は,自己の課題やチームの課題の解決を目指して,練習の仕方や試合の 仕方を考えたり工夫したりすることができるようにすることを通して,自ら学び自 ら考える力を育成することを目指して設定したものである。

 具体的には,運動の特性に応じて,自己やグループ(チーム)の能力に適した課 題を見つけ,その解決を目指して,活動や競技の仕方等を考え,工夫しているかを みるために,この観点を設け,目標への実現状況を評価しようとするものである。

(ウ)運動の技能

 この観点は,運動の特性に触れる技能を身に付けるとともに,体力を高めるため に合理的な運動の行い方を身に付けることを目指して設定したものである。

 具体的には,自己の能力等に適した課題の解決を目指して運動を行うとともに, 運動の特性に応じた技能を身に付けているか,自己の体力や生活に応じて体力を高 めるための運動の合理的な行い方を身に付けているかどうかをみるために,この観 点を設け,目標への実現状況を評価しようとするものである。

(エ)運動や健康・安全についての知識・理解

 この観点は,運動の特性と運動の合理的な実践に関する基礎的な事項,及び個人 生活における健康・安全について,課題の解決に役立つ基礎的な事項を理解し,知 識を身に付けることをねらいとして設定したものである。

 体ほぐし・体力の意義及び運動の心身にわたる効果に関する基礎的な事項を理解 し,知識を身に付けているかどうかをみるために,この観点を設け,目標への実現 状況を評価しようとするものである。

(4) これからの評価

 柔道の学習指導を進めるにあたり,評価の面で最も重視されなければならないもの には,指導と評価の一体化がある。すなわち,指導と評価は別物ではなく,評価の結 果によって後の指導を改善し,さらに新しい指導の成果を再度評価するという,指導に 生かす評価を充実すること(いわゆる指導と評価の一体化)を重視することである。そ して,学習指導要領に示された目標及び内容を踏まえて目標に準拠した評価を進める ことができるよう,創意工夫された柔道の授業が実践され,当面する課題を乗り越え ていくことが期待される。

 これらのことを踏まえて,評価規準及びその具体例についてその改善策を講じる必 要がある。そのためには,目標に準拠した評価がより円滑に行われるように,規準の 設定,適用の妥当性,総括の妥当性を検討した上で,次の改善された評価規準の設定 や授業改善へとつなげていくことが重要である。

 指導と評価の一体化及び目標に準拠した評価の当面する課題には,次のようなもの がある。

ア 評価規準設定の検討

 一つは,設定した評価規準が端的にそれぞれの観点を捉えているかどうかである。 「関心・意欲・態度」,「思考・判断 「運動の技能 「知識・理解」の,それぞれ の観点における具体的な学びの姿として,どのような表現を用いているか,学習の姿 を的確に捉えた表現となっているかどうかが大切である。もう一つは,学習の実現状 況の設定が的確であるかどうかである。これについては 「おおむね満足できると判 断される状況(B)」と「十分満足できると判断される状況(A)」を,学習が質的 な高まりや深まりをもっていると判断されるものとして,どのように捉えるかが大切 になる。総括する際にも 「おおむね満足できると判断される状況(B)」として設 定した評価規準が妥当であるかといった検討が重要である。

イ 学習の実現状況のとらえ方の検討

 これは,どの状況に対して規準を適用するか,それが妥当であるかどうかである。 練習など,学習における質的な学びの姿を,規準に照らして的確に捉えているかどう かが大切である。観察,学習ノート,自己評価・相互評価等によって記録された(記 録される)評価情報が,評価規準とつながるものであるか,適用した規準は妥当であ るかといった検討が重要である。

ウ 評価・評定への総括の検討

 一つは,評定への総括をする際の手法が妥当であるかどうかである。例えば,学期 (年間)の評価・評定を求める際に,単元(学期)ごとの評価を平均する場合と単元 (学期)内の評価を直接評価する場合とでは,どんな違いがでるのかを試算しておく ことである。もう一つは,総括によって得られた結果の意味を捉えているかどうかで ある。例えば 「A」,「B」,「C」という評価結果についても,それぞれが示す実現 状況には幅があり,このことが評定への総括に反映されることも想定される。また, 総括にあたっては,柔道として単元や観点ごとに評価結果についての重み付けをする のか,しないのかといったことを検討する。大切なことは,例えば数値に置き換えて 総括した場合であっても,得られた結果にはどんな意味があるのかを十分に検討して おくことである。なぜなら,評定で得られた数値(「A」,「B」,「C」という符号で も同じ)は,5段階のどこに位置するかということが問題なのではなく,学習の実現 状況がどの段階にあるのかを的確に示しているかどうかが重要になるからである。


第3節 単元計画例と学習指導の展開例

1 指導と評価の計画

 ここでは,柔道における指導と評価の計画について,中学校第1学年から第3学年(例 3-1-1から例3-1-3)までと,高等学校第1学年から第3学年(例3-2-1から例3-2-3)まで を例示する。

 中学校第1学年から第3学年までは15時間扱い,高等学校第1学年から第3学年までは 20時間扱いの例である。

 各表の左側には,学習の区切りと時間,学習のねらいと内容を示した。そして,評価の 観点ごとに評価規準を例示している 「学習活動における具体の評価規準」の欄にある 「◎」の「ゴシック」で示しているものは, 「十分満足と判断される状況(A)」と評価 する具体例である。また,評価をするにあたっては,毎時間にすべての観点について評価 するには無理があるので,数時間のまとまりで評価することができるよう,評価規準を配 置している。

 指導と評価の計画は,地域や学校の実態,生徒の心身の発達段階や特性等を考慮し,中 学校,高等学校の3学年間を見通した上で目標や内容を的確に定め,調和のとれた指導計 画を作成し,これをもとにして指導と評価を一体として行うことができるよう,より具体 的に作成されることが求められる。

例 3-1-1 指導と評価の計画 中学校第1学年(15時間扱い) 図表参照

./img/Fig_003_Rei_3-1-1.png

例 3-1-2 指導と評価の計画 中学校第2学年(15時間扱い)図表参照

./img/Fig_003_Rei_3-1-2.png

例 3-1-3 指導と評価の計画 中学校第3学年(15時間扱い)図表参照

./img/Fig_003_Rei_3-1-3.png

例 3-2-1 指導と評価の計画 高等学校第1学年(20時間扱い)図表参照

./img/Fig_003_Rei_3-2-1.png

例 3-2-2 指導と評価の計画 高等学校第2学年(20時間扱い)図表参照

./img/Fig_003_Rei_3-2-2.png

例 3-2-3 指導と評価の計画 高等学校第3学年(20時間扱い)図表参照

./img/Fig_003_Rei_3-2-3.png

2 中学校

(1) 単元計画例

ア 第2学年15時間計画

(ア) 単元の目標

1)基本となる技や自分に適した技能を身に付け,自由練習や簡易な試合ができる ようにする。
2)伝統的な行動の仕方に留意して,礼儀正しい態度で,安全に留意して,練習や 試合ができるようにする。
3)基本となる技や自分の能力に適した技能を身に付けるための,練習や試合の仕 方を工夫することができるようにする。

(イ) 単元の評価規準 (図表参照)

./img/Fig_003_JH2_15H_Hyouka.png

(ウ) 指導と評価の計画 中学校 第2学年(再掲)(図表参照)

./img/Fig_003_Shidou_Plan_JH2.png

(2) 学習指導の展開例

ア 第2学年 15時間計画 第6時間目

(ア) 本時の目標

1)技の分類で,同じ系にある新しい技を学ぶ。
2)互いに協力して,安全に留意して活動する。
3)新しい技を身に付けるための練習の仕方を工夫する。

(イ) 本時の主な内容

1)技の発展 (支え釣り込み足,大腰)
2)技の班別学習

(ウ) 学習の展開 (中学校 第2学年 15時間計画 第6時間目 図表参照)

./img/Fig_003_Tenkai_JH2_15H_6th.png

(3) 評価

 評価をするにあたっては,柔道の学習指導により評価した結果が,指導要録におけ る観点別の学習状況の評価と評定の記入としてどのように行われるのかを踏まえてお くことが必要である。

 中学校における評定ついては,学習指導要領に示す目標に照らして,その実現状況 を評価する観点別学習状況を評価の基本とするとともに,目標に準拠した評価である ことを踏まえ,学習指導要領に示す目標が実現されたかどうかを客観的に評価してい くことが必要である。

 柔道の評価をすすめるにあたっては,まず,観点別の学習状況の評価で,どのよう な実現状況であれば「おおむね満足と判断される状況(B)」なのか,あるいは「十 分満足と判断される状況(A)」なのかということについての判断が,できるだけ共 通なものとなることが重要な課題である。また 「努力を要すると判断される状況 (C)」の場合には,学習の過程で適切な指導の手だてを講じることが求められる。 そのためにも,評価規準が示す生徒の学習状況を具体的な評価方法と結びつけて捉え ていく取り組みが重要となる。

 観点別の学習状況の評価や評定で,目標に準拠した評価を行うには,評価方法の工 夫改善をする必要がある。例えば,評価が単元の終わりに偏ることのないよう,評価 の時期を工夫したり,学習の過程における評価を一層重視したりするなど,評価の場 面についても工夫を加えるとともに,柔道の学習活動の特質,評価の場面や評価規準 等に応じて,観察,ワークシート,学習カード,ノート,レポート,ペーパーテスト などの様々な評価方法の中から,学習活動の場面における生徒の学習状況を的確に評 価できる方法を選択していくことが必要である。

 このようなことを踏まえて,中学校における評価を進めるにあたっては次の点に留 意する。

 一つは,観点別学習状況の評価を的確に行うということである 「関心・意欲・態 度」,「思考・判断」,「運動の技能」,「知識・理解」の四つの観点による評価を行う ことである。

 二つは,評定への総括をする際には,観点別学習状況の評価を基本的な要素として いることを踏まえるということである。観点別学習状況の評価を的確に行い,その結 果を評定に総括していく必要がある ただし 単元における観点別評価の総括の仕方, 評定への総括の仕方については様々な考え方や方法があり,各学校において工夫する ことが望まれる。

 三つは,指導と評価の改善を行うことである。評価だけに目が向いていては,指導 の改善にはならない。指導の改善とは,授業の改善であることを十分に踏まえる。授 業の改善は指導の改善であり,それが評価の改善につながることを重視することが大 切である。


2 高等学校

(1) 単元計画例

ア 第2学年 20時間計画

(ア) 単元の目標

1)自分の能力に応じて技能を高め,自由練習や試合ができるようにする。
2)伝統的な行動の仕方に留意して,相手を尊重し,公正な態度を保ち,安全に留 意して,練習や試合ができるようにする。
3)自分の能力に応じて技能を高めるための計画的な練習や試合の仕方を工夫する ことができるようにする。

(イ) 単元の評価規準 (図表参照)

./img/Fig_003_H2_20H_Hyouka.png

(ウ) 指導と評価の計画 高等学校 第2学年(再掲)(図表参照)

./img/Fig_003_Shidou_Plan_H2.png

(2) 学習指導の展開例

ア 第2学年 20時間計画 第8時間目

(ア) 本時の目標

1)技の分類で,同じ系から得意技のもととなる新しい技(払い腰,内股, 跳ね腰)を学ぶ。
2)互いに協力し,安全に留意して活動できるようにする。
3)新しい技が習得できるように計画的に練習の仕方を工夫する。

(イ) 本時の主な内容

1)技の発展 (払い腰,内股,跳ね腰)
2)技の班別学習

(ウ) 学習の展開 (高等学校 第2学年 20時間計画 第8時間目 図表参照)

./img/Fig_003_Tenkai_H2_20H_8th.png

(3) 評価

 評価をするにあたっては,柔道の学習指導により評価した結果が,指導要録におけ る評定の記入としてどのように行われるのかを踏まえておくことが求められる。

 高等学校における評定ついては,従来から,目標に準拠した5段階評価とされてお り,現行の評価方法を維持することとしている。評定にあたっては,技能の実技テス トやペーパーテスト等による技能や知識のみの評価など一部の観点に偏した評定が行 われることのないように 「関心・意欲・態度 「思考・判断 「運動の技能 「知 識・理解 の四つの観点による評価を十分に踏まえながら評定を行っていくとともに, 5段階の各段階の評定が個々の教師の主観に流れて客観性や信頼性を欠くことのない よう学校として留意する必要がある。

 柔道の評価をすすめるにあたっては,まず,観点別学習状況の評価で,どのような 状況であれば「おおむね満足とされる状況(B)」なのか,あるいは「十分満足とさ れる状況(A)」なのかということについての判断が,できるだけ共通なものとなる ことが重要である。また 「努力を要する状況(C)」の場合には,学習の過程で適 切な指導の手だてを講じることが求められる。そのためにも,評価規準が示す生徒の 学習状況を具体的な評価方法と結びつけて捉えていく取り組みが重要となる。

 また,評価を行うには,評価方法の工夫改善をする必要がある。例えば,評価が単 元の終わりに偏ることのないよう,評価の時期を工夫したり,学習の過程における評 価を一層重視したりするなど,評価の場面についても工夫を加えるとともに,柔道の 学習活動の特質,評価の場面や評価規準等に応じて,観察,ワークシート,学習カー ド,ノート,レポート,ペーパーテストなどの様々な評価方法の中から,学習活動の 場面における生徒の学習状況を的確に評価できる方法を選択していくことが必要であ る。

 このようなことを踏まえて,高等学校における評価を進めるにあたっては次の点に 留意する。

 一つは,観点別学習状況の評価を的確に行うということである 「関心・意欲・態 度」,「思考・判断」,「運動の技能」,「知識・理解」の四つの観点による評価を行う ことである。

 二つは,評定を行う際には,観点別学習状況の評価を基本的な要素としているとい うことである。観点別学習状況の評価を的確に行い,その結果を評定に結びつける必 要がある。

 三つは,指導と評価の改善を行うことである。評価だけに目が向いていては,指導 の改善にはならない。指導の改善とは,授業の改善であることを十分に踏まえ,授業 の改善は指導の改善であり,それが評価の改善につながることを重視することが大切 である。


INDEX | |
Author : 文部科学省 (MEXT http://www.mext.go.jp/).
Editor : 佐藤 智彦 (Sato tomohiko).

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