各学習段階では,どのような技をどのような手順で取り扱っていけばよいか,大きな課 題である。体育の授業においては,基本的には,学習指導要領「解説」に示されている技 を取り扱っていくことが基本となる。一方,投げ技の指導の手順については,技のかけ易 さや受け身のとり易さなどを考慮しながら,易→難,弱→強,低→高などと順次その難易 度等を高めていくことが必要である。
しかし,何をもって投げ技の難易度とするかについては難しいと言わざるを得ない。ま た,個々の技の難易度のみならず,その指導の手順についても,一人一人の指導者や生徒 の特性等から一概には言えないのも事実である。
したがって,ここでは各学習段階における投げ技の取り扱い方については,投げ技の難 易度というよりも,技の系統性を考慮しながら,取と受との相対関係に着目した二次元の マトリックスで整理を試みている。
取の立場からすると,両足で立った状態で技を施すのが,最も安定している。軸足一本 で立っている状態で技を施したり,捨て身で技をかけたりする場合はどうしても安定性を 欠く。心理的にも不安を抱えた状態で技を施すことにもなる。他方,受の立場からすると, 一方の足が畳についている状態で投げられれば安心して受け身をとることができる。宙に 舞った状態で投げられると,受は,瞬間的に恐いと思ったり,心理的にも不安を抱えたり した状態で受け身をとることになる。
このように考えると,投げ技の取り扱いにあたっては,取と受の双方が「安定」してい ることが基本的に重要であると言える。したがって,この安定した状態で投げ技の練習を 行い,次第に習熟を図りつつ大きな投げ技に挑戦していくようにすることが大切となる。
もとより,技能が高度に身に付いたときは,いずれの技も宙に舞って受け身をとること に変わりはない。
以下,二次元のマトリックスで具体的に検討すると次のようである。
なお,基本動作,特に受け身との関連で投げ技を初歩の段階で取り扱うときは,ここで いう投げ技の取り扱いとは別途考えなければならない。例えば,大腰のように,相手をし っかりと抱えたままそっと下ろすように投げて受け身をとらせるような指導においては, その大腰を投げ技として取り扱ってはいないということになる。
以上のことから,本指導計画においては次のように取り扱うこととする。
中学校 ①②③に示された技
高等学校 ④⑤⑥に示された技
個々の投げ技をどの校種・学習段階で取り扱うかについては,それぞれのねらいや授業 時数等によって弾力的に考えることが大切である。
固め技についても,どのような技をどのような手順で取り扱っていけばよいか,検討し なければならない。取り扱う技については,やはり,学習指導要領「解説」に準拠してい くことに変わりはない。
固め技の指導の手順等については,抑え技を中心として指導し,生徒の習熟の程度に応 じて絞め技,関節技を取り扱うこととなる。しかし,抑え技よりも絞め技や関節技が難し いかと言えば,一概には言えない。
したがって,固め技の取り扱いについても,固め技の難易度というよりも,技の系統性 を考慮しつつ,取と受との相対関係に着目した二次元のマトリックスで各学習段階におけ る固め技の取り扱い方について整理を試みている。
取は,一つに,相手と直接的に向かい合ってその動きを制する攻め方がある。二つに, 相手の背後から攻める攻め方がある。三つに,相手と離れながらもその関節を制する技も ある。このように多様な展開ができる。受にとっては,抑え技をかけられたとしてもその 圧迫感が小さい方がどことなく安心感がある。圧迫感が強いとどうしても息苦しくなる。 絞め技・関節技のように非日常的な技を受ければ,恐怖感が走るのは言うまでもない。
このようなことから,固め技の取り扱いにあたっては,受が心理的に「安心」した状態 で学習できるようにすることが基本的に重要となる。圧迫感の小さい抑え技から学び,順 次柔道の特性に触れる楽しさや喜びを味わいながら,非日常的な絞め技や関節技を学んで いくと効果的であろう。
他の武道にはない柔道固有の技術体系の一端を学ぶことによって武道のよさを知ること ができるようにすることが大切である。
以上のことから,本指導計画においては次のように取り扱うこととする。
中学校 ①に示された技
高等学校 ②と③に示された技
個々の固め技をどの校種・学習段階で取り扱うかについては,それぞれのねらいや授業 時数等によって弾力的に考えることが大切である。
ここでは,図1と図2で整理を試みた技の分類表( 取と受との相対関係による投げ技 (固め技)の取り扱い(例 )をもとに作成した「技能の学習段階と学習内容の例」及 び「武道の学習内容及び具体の評価規準例」を示す。
技能の学習段階と学習内容の例では,中学校第1学年から第3学年までと高等学校第 1学年から第3学年までの6年間を見通して,学習指導要領解説に示された技を系統的に学 習できるように配列している 表中の → は同じ技を取り扱う場合であり,「斜体文字」 は中学校で取り上げた技を高等学校でも取り上げる場合の表記に用いている。
柔道の学習内容には,技能の内容,態度の内容,学び方の内容がある。
技能の内容は,基本動作,対人的技能及び試合で構成される。相手との攻防を競い合う 対人的技能は,柔道の中核的な技能であり,それを支えるものとして基本動作がある。試 合は,学習した技能を確かめるものであるが,柔道の特性に基づく楽しさや喜びを最も味 わうことができる内容である。
態度の内容は,柔道が我が国の伝統的な運動文化であるため,特に,礼法や,伝統的な 行動の仕方に留意する態度,互いに相手を尊重する態度,規則を守る態度,公正な態度, 健康・安全に留意する態度などが重視される。また,柔道の特性に関心をもち,楽しさや 喜びが味わえるように進んで取り組もうとする態度が要求される。
学び方の内容は,自己の能力に適した技を習得するための練習の仕方や,試合の仕方を 工夫しているかどうかといった思考・判断に関する内容が重視される。また,自己との対 応によって変化する相手と攻防し合うという柔道の特性から,基本動作と対人的技能との 関連を図りながら,自己の能力に適した得意技を身に付けていくことができるようかかり 練習や約束練習を工夫したり,すきを見つけ,くずして投げるなど自由練習や試合の仕方 を計画的,継続的に工夫したりすることが大切である。
さらには,これらの内容の基盤として知識・理解に関するものも重視する。それには, 柔道の特性や学び方,技術の系統性・構造,合理的な練習の仕方を理解するとともに,試 合の仕方や審判法などを理解し,知識を身に付けているかどうかといった内容が大切であ る。
柔道は,多くの生徒にとって中学校で初めて学習する運動種目であるため,柔道の基本 的な事柄を重視するとともに,生徒の心身の発育発達段階や能力・適性,興味・関心等の 実態を考慮し,技能の程度に応じて公正で安全な練習や試合ができるようにする観点から 学習内容を考えていく必要がある。
9頁の「表1 技能の学習段階と学習内容の例」は,中学校及び高等学校における学習 内容の参考例である。
各学校においては,これを参考にしながら学校や生徒の実態を踏まえて適切な学習内容 を選定して学習させることが重要である。
なお,内容の配列は,技の難易度や指導の順序を示すものではない。
10頁,11頁の「表2 武道の学習内容及び具体の評価規準例」は,中学校,高等学校 における武道の学習内容及び評価規準を示したものである。
各学校においては,これを参考にしながら学校や生徒の実態を踏まえて,学習指導を計 画的にしかも効率的よく展開する必要がある。このため,地域や学校の実態,生徒の心身 の発達段階や特性等を十分考慮し,中学校の3学年間を見通した上で目標や内容を適切に 定め,調和のとれた具体的な指導計画を作成することが大切である。
なお,内容の配列は,技の難易度や指導の順序を示すものではない。
ア 基本動作
基本動作には,投げ技と固め技の基本動作があるが,単独での動作の他に「投げ技 に対して受け身をする 「崩して技をかける 「体をさばいて相手の動きや技に対応 する などのように できるだけ対人的技能と関連させて取り扱うことが大切である。 特に,基本動作の中でも受け身は最も重要であり,単独での学習のほか,対人的技能 の学習と関連させ,あらゆる場面に対応できるよう,受け身の習熟に重点を置くこと が大切である。
イ 対人的技能
投げ技は,生徒の体力や技能の程度を考慮して,受け身の指導との関連で,特に安 全に気を配りながら指導する必要がある。最初に取り扱う技を選ぶ場合 「取」の生 徒が安定した態勢を保ちながら,安全にかけられるということはもとより 「受」の 生徒が恐怖心を抱くことなく,安全に受け身がとれるという観点から選択することが 重要である。その後,技能の習得の程度に応じて徐々に技を増やしていくことが望ま しい。
また,自由練習(乱取り)を行わせる場合は,体格や体力にまかせた無理な技をか けないように留意させるとともに,技をかけられた側も無理をして防御するのではな く 巧く入られた場合には素直に正しく受け身を取るよう指導することが大切である。 固め技は,抑え技のみを取り扱うが,抑え技の指導に先立ち,抑え込みの条件を生徒 に理解させる必要がある。また,かたちだけでなく,簡単な攻め方や返し方,それに 対する防御の仕方,抑えられた場合の返し方なども,固め技の基本動作と関連させて 取り扱うとよい。
「形」は,崩しや体さばきなどの投げ技の理合や,固め技の要点を体得する上で有 効であるので,学習段階に応じて適切に取り扱うことが望ましい。
ウ 試合
試合は,学習したことを総合的に発揮する場であり,技能の習熟の程度や学習した 技能の種類に応じて,時間,場所,方法などを工夫しながら,学習の中間やまとめの 各段階において適切に取り扱うことが望ましい。
試合を行うにあたり,まず試合審判規定を理解させた上で,必要に応じて生徒の技 能水準にあった特別規則を定め 安全に試合が行えるよう配慮することが重要である,。
また,試合の計画や運営にあたっては,係の分担を明らかにし,互いに協力して能 率的に行わせる工夫が必要である。
態度の内容については,礼法や,伝統的な行動の仕方に留意する態度,相手を尊重 する態度,規則を守る態度,勝敗に対する公正な態度,健康・安全に留意する態度, 柔道の特性に関心をもち,楽しさや喜びが味わえるように進んで取り組もうとする態 度などを,技能の学習内容と関連させて取り扱うことが大切である。
柔道は,中学校で初めて示される内容であることから,運動の特性を十分に理解で きるようにする必要がある。
学び方の内容については,自己の能力に適した技を習得するための練習の仕方や, 試合の仕方を工夫しているかどうかといった思考・判断に関する内容が重視される。 そのためには,自己との対応によって変化する相手と攻防し合うという柔道の特性か ら,基本動作と対人的技能との関連を図りながら,自己の能力に適した得意技を身に 付けていくことができるようかかり練習や約束練習を工夫したり,すきを見つけ,く ずして投げるなど自由練習や試合の仕方を計画的,継続的に工夫したりすることが大 切である。また,練習試合や試合の結果だけにこだわるのではなく,生徒が身に付け た技を試す機会として活用し,その内容から新しい課題を見いだすことができるよう にすることが大切である。
高等学校における柔道の学習内容は,中学校と同様,技能の内容,態度の内容,学び方 の内容がある。
技能の内容は,基本動作,対人的技能及び試合で構成される。対人的技能が中核的な内 容といえるが,それを支えるものが基本動作,定められた規則のもとで対人的技能の攻防 を競うものが試合である。
態度の内容は,柔道が我が国の伝統的な運動文化であるため,特に,礼法や,伝統的な 行動の仕方に留意する態度,相手を尊重する態度,規則を守る態度,公正な態度,健康・ 安全に留意する態度などが重視される。また,柔道の特性に関心をもち,楽しさや喜びが 味わえるように進んで取り組もうとする態度が要求される。
学び方の内容は,自己の能力に応じた技を習得するための計画的な練習の仕方や試合の 仕方を工夫しているかどうかといった思考・判断に関する内容が重視される。また,基本 動作を確実に習得しながら自己の能力に応じた技を選び,得意技を身に付けることができ るよう計画的に練習や試合の仕方を工夫することができるようにすることが大切である。
さらには,これらの内容の基盤として知識・理解に関するものも重視する。それには, 柔道の特性や学び方,技術の系統性・構造,合理的な練習の仕方を理解するとともに,試 合の仕方や審判法などを理解し,知識を身に付けているかどうかといった内容が大切であ る。
なお,高等学校では,中学校における学習経験等により,生徒の学習の仕方や技能の程 度などに差があるため,指導にあたっては十分に留意する必要がある。
9頁の「表1 技能の学習段階と学習内容の例」は,中学校及び高等学校における学習 内容の参考例である。
各学校においては,これを参考にしながら学校や生徒の実態を踏まえて適切な学習内容 を選定して学習させることが重要である。
なお,内容の配列は,技の難易度や指導の順序を示すものではない。
10頁, 11頁の「表2 武道の学習内容及び具体の評価規準例」は,中学校,高等学校 における武道の学習内容及び評価規準を示したものである。
各学校においては,意図的,計画的な学習指導を展開する必要がある。このためには, 地域や学校の実態,中学校との関連,生徒の特性等を十分考慮し,高等学校の 学年間を3 見通した上で,内容の決定,各内容にあてる授業時数,単元の構成及び配列等を適切に定 めた指導計画を作成することが大切である。
なお,内容の配列は,技の難易度や指導の順序を示すものではない。
ア 基本動作
基本動作には,投げ技と固め技の基本動作があるが,単独での動作の他に「投げ技 に対して受け身をする 「崩して技をかける 「体をさばいて相手の動きや技に対応 する などのように できるだけ対人的技能と関連させて取り扱うことが大切である。
特に,基本動作の中でも受け身は最も重要であり,単独での学習のほか,対人的技 能の学習と関連させ,あらゆる場面に対応できるよう,受け身の習熟に重点を置くこ とが大切である。
イ 対人的技能
投げ技は,生徒の体力や技能の程度を考慮して,受け身の指導との関連で,特に安 全に気を配りながら指導する必要がある。最初に取り扱う技を選ぶ場合 「取」の生 徒が安定した態勢を保ちながら,安全にかけられるということはもとより 「受」の 生徒が恐怖心を抱くことなく,安全に受け身がとれるという観点から選択することが 重要である。
その後,技能の習得の程度に応じて徐々に技を増やしていくことが望ましい。高等 学校では,得意技を身に付けさせたり,技の連絡変化の学習に重点をおいたりするな ど,対人的技能に関する学習内容を中学校より質的に高めることが要求される。
また,自由練習(乱取り)を行わせる場合は,体格や体力にまかせた無理な技をか けないように留意させるとともに,技をかけられた側も無理をして防御するのではな く 巧く入られた場合には素直に正しく受け身を取るよう指導することが大切である。
捨て身技は,高等学校で初めて取り扱う学習内容であるが,基本動作や他の投げ技 に習熟してから取り扱うようにする。初歩的な段階の生徒が自由練習(乱取り)でこ の技を用いると危険を伴うことがあるので,崩しや体さばきなどを身に付けるための 技として,約束練習で取り扱うことにとどめる方がよい。ただし,技能が習熟してき た場合には,自由練習(乱取り)などで取り扱ってもよい。
固め技は,抑え技を中心に取り扱うが,抑え技の指導に先立ち,抑え込みの条件を 生徒に理解させる必要がある。また,かたちだけでなく,簡単な攻め方や返し方,そ れに対する防御の仕方,抑えられた場合の返し方なども,固め技の基本動作と関連さ せて取り扱うとよい。
絞め技や関節技は,技能に習熟した生徒が対象であれば取り扱ってもよいが,その 概要を理解させる程度にとどめる方がよい。これらの技を指導する場合,まず「参っ た」の仕方を教え,その危険性を生徒に十分理解させた上で,事故防止に十分留意し て取り扱うことが大切である。
投げ技,固め技の連絡変化は,個々の技を習得した段階で,攻防の技能を発展させ る内容として,技能の程度に応じたものを取り扱うようにする。
形は,崩しや体さばきなどの投げ技の理合や,固め技の要点を体得する上で有効で あるので,学習段階に応じて適切に取り扱うことが望ましい。
ウ 試合
試合は,学習したことを総合的に発揮する場であり,技能の習熟の程度や学習した 技能の種類に応じて,時間,場所,方法などを工夫しながら,学習の中間やまとめの 各段階に応じて適切に取り扱うことが望ましい。
試合を行うにあたり,まず試合審判規定を理解させた上で,必要に応じて生徒の技 能水準にあった特別規則を定め 安全に試合が行えるよう配慮することが重要である,。 また,試合の計画や運営にあたっては,係の分担を明らかにし,互いに協力して能率 的に行わせる工夫が必要である。
態度の内容については,礼法や,伝統的な行動の仕方に留意する態度,相手を尊重 する態度,規則を守る態度,公正な態度,健康・安全に留意する態度,柔道の特性に 関心をもち,楽しさや喜びが味わえるように進んで取り組もうとする態度などを,技 能の学習内容と関連させて取り扱うことが大切である。
学び方の内容については,自己の能力に応じた技を習得するための計画的な練習の 仕方や試合の仕方を工夫しているかどうかといった思考・判断に関する内容が重視さ れる。そのためには,基本動作を確実に習得しながら自己の能力に応じた技を選び, 得意技を身に付けることができるよう計画的に練習や試合の仕方を工夫することが大 切である。かかり練習や約束練習を工夫して行うことによって,相手の動きや体勢等 に応じてタイミングよく技をかけたり,自ら技をかける機会を意図的に作りだし,技 をかけることができる能力を高めていくことが大切である。また,練習試合や試合を 通して,学習を振り返り,学習内容や方法等を修正したり,新しい課題を発見したり することに役立てられるようにすることが大切である。