■ 柔道指導の手引き http://www.mext.go.jp/a_menu/sports/jyujitsu/07121717.htm
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第1章 体育学習における武道


第1節 学習指導要領改訂の経緯

1 「格技」から「武道」へ

 平成元年3月改訂の学習指導要領において 「格技」が「武道」と改められている。

 これは, 21世紀を目指し社会の変化に自ら主体的に対応できる心豊かな人間の育成を図るこ とを基本的なねらいとした教育課程審議会の答申(昭和 62年 12月)に基づいて,学習指導要領 の改訂が行われたことによるものである。

 教育課程審議会の答申に盛り込まれた教育課程の基準の改善方針の一つに「国際理解を深め, 我が国の文化と伝統を尊重する態度の育成を重視すること」が挙げられており,体育については, 諸外国に誇れる我が国固有の文化として,歴史と伝統のもとに培われてきた武道を取り上げ,そ の特性を生かした指導ができるようにしたものである。

  「格技」という名称は,そもそも戦後の武道教育の取り扱いの時代的経緯を踏まえ,昭和33 年以降,主として学習指導要領上の一つの運動領域の名称として用いられてきたが,今日では, 武道は国際的にも日本の伝統的な運動文化として広く理解されており,さらに武道学会,武道館 等の名称も多く用いられていることなどを勘案すると,もはや社会的にも学問的にも武道を用い る方が適切である。 このようなことから 「格技」を「武道」に改称し,武道の優れた内容を学習指導の中で重視 , していくこととしたものである。

2 改訂学習指導要領の経緯

 改訂学習指導要領(中学校学習指導要領は平成10年12月,高等学校学習指導要領は平成11 年3月改訂)では 「自ら学び自ら考える力などの[生きる力]の育成を基本とし,教育内容の 厳選と基礎・基本の徹底を図ること,一人一人の個性を生かすための教育を推進すること,豊か な人間性とたくましい体をはぐくむための教育を改善すること などを踏まえて改訂が行われた」。

 体育については,平成10年7月の教育課程審議会答申における保健体育科の改善の基 本方針において 「自ら運動をする意欲を培い,生涯にわたって積極的に運動に親しむ資 質や能力を育成するとともに基礎的な体力を高めることを重視する」とし,その中で,武 道については 「我が国固有の文化に触れるための学習が引き続き行われるようにする」 ことが特記されている。

 したがって,新しい学習指導要領においても,武道は,武技,武術などから発生した我が国固 有の文化として伝統的な行動の仕方が重視される運動で,相手の動きに対応した攻防ができるよ うにすることをねらいとし,自己の能力に応じて課題の解決に取り組んだり,勝敗を競い合った り,礼儀作法を尊重して練習や試合ができることを重視する運動として位置付けられているので ある。

第2節 武道のよさ

 運動の特性は,心身の発育発達や体力の向上に及ぼす効果面に着目した「効果的特性 ,その 運動固有の技能面に着目した「構造的特性 ,その運動にどんな魅力を感じてどんな欲求を充足 していくかという「機能的特性」などから捉えるのが一般的である。

 これまでの体育の学習指導においては,どちらかといえば,運動の効果的特性に着目した指導 に重点があったが,生涯体育・スポーツの観点を重視したことから構造的特性に着目した指導に 重点が移り,そして今日,その運動固有の楽しさや喜びを味わうための機能的特性に着目した学 習指導へと発展してきている。

 今回の学習指導要領の改訂において 「自ら運動をする意欲を培い,生涯にわたって積極的に 運動に親しむ資質や能力を育成する」ことが強調されていることからも,生徒自身がその運動の どこに楽しさや魅力を感じているかという機能的特性を重視した学習指導の工夫が大切である。

 それは,言葉を換えていえば,その運動の「よさ」を味わうことができるようにするというこ とである。その意味から,武道のよさはどこにあるのか検討する必要がある。

 武道は,主として,相手の動きと呼応して,攻撃したり防御したりすることによって楽しさや 喜びを味わうことができる運動である。

 武道の学習では,相手の動きや「技」に対して,自ら工夫して攻防する技を習得した喜びや, 勝敗を競い合う楽しさを味わうことができるようにするとともに,武道に対する伝統的な考え方 を理解し,それに基づく行動の仕方を身に付けることができるようにすることが大切である。

 もとより,機能的特性に重点はあるが,効果的特性や構造的特性などを否定するものではない。

 さらに,武道固有のものの見方考え方もある。

 一つには,武道とスポーツの性格には共通する部分が多いが,人間形成を目指す教育としての 武道はスポーツと異なるという主張がある。確かに,武道では伝統的に精神的な面を尊重する考 え方が重視されており,欧米で発祥したスポーツと比較して,より修養的あるいは鍛錬的な目的 を強くもっている。

 二つには,武道では 「礼に始まり礼に終わる」といわれるように 「礼法」を特に重要視して いる。試合などの前の高ぶる気持ちを抑えたり,試合などにおける激しい攻防の後,まだ心理的 な興奮が静まっていないときでも,その興奮を抑えて,正しい形で丁寧な「礼」を行うことが求 められる 「礼」を重んじ,その形式に従うことは,自己を制御するとともに相手を尊重する態 度を形に表すことであり,その自己制御が人間形成にとって重要な要素であると考えられている のである。

 三つには,武道における試合を行う者同士の関係は 「道 (人間としての生き方,在り方)を 共に学び合う仲間同士であり,敵と味方という対立的なものではないという考え方がある。自分 が勝つことのできた試合を成立させたのは,共に学び合う相手があったからであり,さらに互い が目指す目標は「道」を極めることであって,試合の勝敗のみにこだわることは慎むべきである という考え方が重視されている。

 いわば伝統的なものの見方考え方であるとともに,それに基づく伝統的な行動の仕方であると いえる。

 このように,我が国の伝統的な運動文化である武道を,学校における体育学習の内容として重 視していくことは,我が国の文化や伝統を尊重する観点はもとより,これからの国際社会におい て,世界に生きる日本人を育成していく立場からも有意義なことである。

第3節 柔道の特性

 柔道の学習指導を進めるにあたっては,武道という運動の特性に応じた指導を行うこと により,学習の効果をより一層積み上げることができることはいうまでもない。

 まず,柔道が心身の発育発達や体力の向上に及ぼす効果面の特性について触れる。

 柔道は,稽古の積み重ねを通して,瞬発力,持久力,調整力などを養うことができ,さ らに相手と格闘し合う対応の中で旺盛な気力,礼儀,克己,公正,遵(じゅん)法などの 態度を養うことができる。

 柔道は,そもそも嘉納治五郎が,我が国の伝統的な武技の一つであった柔術を新しい原 理のもとに集大成して創始したものであり,その目的とするところは,相手との稽古等を 通じて身体や精神を鍛錬修養し,それによって自己を完成し,社会に役立つ人間を育成す るところにある。この考え方は,柔道の教育的な意義を強調するとともに,心身の発育発 達への効果面を重視している。このような創始期の考え方は今日も継承され大切にされて いる。

 次に,柔道特有の技能面の特性について触れる。

 柔道の技能の特性は,相手との直接的な格闘を課題とする対人的技能を中核としている ところである。相手を制するためには,自己の最高能力を発揮する必要があるが,自分だ けでは成立しない技能であり,相手との格闘的な対応の中で初めて成立する対人的競技で ある。特に,相手の攻撃や防御の動きをかわしながら,相手を制していく個人的な対人技 能であるところに基本的な特徴がある。

 柔道は,格闘する相手がいて初めて成立する運動であるが,この相手は単に格闘のため の相手ではなく,一定の規則に従って互いに対人的技能を競い合う相手である。このため, 互いに競技規則を守り,相手を尊重し,公正な態度で,安全に競技することが求められる。

 柔道では,相互に激しい闘志をもって自己の最高の能力を発揮して技能を競い合う必要 があるが,勝敗にこだわりすぎると規則や行動の仕方に正しさを欠く傾向になりやすい。 したがって,互いの激しい闘志を適切に抑制しながら,相手を尊重し,公正な態度で勝敗 を争う行動が要求される。

 そのため,単に技能の競い合いによる勝利の喜びを求めるだけでなく,伝統的な行動の 仕方を身に付ける必要がある。このような特性に触れる学習を行うことにより,柔道のよ さを体得することができる。

 次は,柔道の楽しさや魅力という機能面からの特性について触れる。

 柔道は,基本動作や対人的技能を自己の能力等に応じて身に付け,さらに自分の得意技 を習得することの楽しさや喜び,そしてその技を使って練習や試合ができるようになると 一層楽しさや喜び,魅力が増してくる。

 柔道の学習指導においては,以上述べたような運動の特性を踏まえ,生徒の運動に親し む態度を養うとともに健康の増進や体力の向上を図るため,効果的な授業を展開していく 必要がある。

第4節 柔道の指導のねらい

 柔道の指導のねらいは,保健体育科の目標や前述の柔道の特性などから,各校種に応じ て次のように捉えることができる。

 <中学校>

 中学校では,柔道を初めて学習する生徒が大部分であることを考慮して指導することが 重要である。

  1. 基本動作を正しく身に付けるとともに対人的技能を習得し,技能の程度に応じた練習 や試合ができるようにする。
  2. 技能の程度に応じて目標をもち,互いに協力して計画的に練習や試合ができるように する。
  3. 伝統的な行動の仕方に留意するとともに,規則や礼法を守り,互いに相手を尊重し, 公正な態度で練習や試合ができるようにする。また,勝敗の原因を考え技能の練習方法 を工夫できるようにする。
  4. 禁止事項を守り,練習場の安全を確かめるなど,健康・安全に留意して練習や試合が できるようにする。

 <高等学校>

 高等学校では,中学校における学習経験の違いから,生徒の技能の差があると考えられ るので,生徒一人一人に応じた指導をすることが重要である。

  1. 基本動作や対人的技能の習熟を図り,相手の攻防に応じた練習や試合と審判ができる ようにする。
  2. 自己の技能の程度を知るとともに,対人的技能の向上,得意技の習得,相手に対する 作戦の工夫などの課題をもって,互いに協力して自主的,計画的に練習や試合ができる ようにする。
  3. 伝統的な行動の仕方に留意するとともに,規則や礼法を守り,互いに相手を尊重し, 公正な態度で練習や試合ができるようにする。また,勝敗の原因を考え技能の練習方法 を工夫できるようにする。
  4. 禁止事項を守り,練習場の安全を確かめるなど,健康・安全に留意して練習や試合が できるようにする。


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Author : 文部科学省 (MEXT http://www.mext.go.jp/).
Editor : 佐藤 智彦 (Sato tomohiko).

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